今回の抄読会担当は、薬剤部の飯尾先生です。担癌患者での静脈血栓形成傾向についての予防として、DOACではEdoxabanでのHOKUSAI試験が昨年公表されています。今回は、Apixabanとプラセボの試験で同じ試みが行われNEJMへ掲載されました。HOKUSAIでは、Daltepalinとの比較で統計的な差は認められませんでしたが、今回は、プラセボとの比較であり、明らかな統計的な優位差を認めています。どのように解釈するのべきか、議論のあるところです。
【抄読会での主な討論】
・ エドキサバン経口投与は,静脈血栓塞栓症の再発および重大な出血の複合転帰に関して,ダルテパリン皮下投与に対して非劣性を示したHokusai VTE Cancer試験と似ているが,今回の試験ではプラセボと比較して優性を示しただけで,使わないより良いのは当たり前な感じはする.
・ 癌患者のVTE予防でDOACが有効であることを示せればガイドラインに載るという,そのドル箱狙いの研究が多く行われているようだ.
【目的と方法】
静脈血栓塞栓症(VTE)の治療の第一選択は抗凝固療法であり,従来から日本では用量調節が必要な未分画ヘパリンとワルファリンが使用されてきた.いずれも調節に難渋するためVTE 再発が少なくなく,また出血性合併症も高率だった.近年,非経口Xa 阻害薬フォンダパリヌクス,ならびに非ビタミンK 阻害型経口抗凝固薬(NOAC)/ 直接経口抗凝固薬(DOAC)のエドキサバン,リバーロキサバン,アピキサバンが,日本でもVTE に対して使用できるようになった.従来治療よりも安定した効果を発揮すると考えられる.一方で,活動性の癌を有する患者は静脈血栓塞栓症のリスクが高く,相当な障害,死亡,医療支出をもたらす.Khorana スコア(0~6 のスコアが高いほど静脈血栓塞栓症のリスクが高い)は,この合併症のリスクが高い癌患者の特定における妥当性が確認されており,血栓予防で利益が得られる可能性のある患者の選別に有用と考えられる.癌を有し,静脈血栓塞栓症のリスクが中~高(Khorana スコア 2 以上)で,化学療法を開始する外来患者を対象に,血栓予防を目的とする低用量のアピキサバン(2.5 mg を 1 日 2 回)の有効性と安全性を評価するために無作為化プラセボ対照二重盲検臨床試験を行った.プライマリーエンドポイントは,180 日間の追跡期間中に客観的に記録された静脈血栓塞栓症とした.主な安全性の主要評価項目は重大な出血エピソードとした.
【結果と結論】
無作為化された 574 例のうち,修正 intention-to-treat 解析の対象は 563 例であった.静脈血栓塞栓症は,アピキサバン群の 288 例中 12 例(4.2%)とプラセボ群の 275 例中 28 例(10.2%)に発生した(ハザード比 0.41,95%信頼区間 [CI] 0.26~0.65,P<0.001).修正 intention-to-treat 解析では,重大な出血は,アピキサバン群の 10 例(3.5%)とプラセボ群の 5 例(1.8%)に発生した(ハザード比 2.00,95% CI 1.01~3.95,P=0.046).投与期間中に,重大な出血は,アピキサバン群の 6 例(2.1%)とプラセボ群の 3 例(1.1%)に発生した(ハザード比 1.89,95% CI 0.39~9.24).癌を有し,化学療法を開始する中~高リスクの外来患者では,アピキサバン療法によりプラセボと比較して静脈血栓塞栓症の発生率が有意に低下した.重大な出血エピソードの発生率は,アピキサバン群のほうがプラセボ群よりも高かった.Xa因子阻害剤ではHokusai VTE Cancer試験・Select-D試験において,VTEがん患者の再発予防で低分子量ヘパリンに劣らないことをすでに証明している.高リスク患者での予防戦略においても,出血イベントとのトレードオフではあるが,VTE抑制効果を示した.リバーロキサバンでのCASSINI試験も同様の結果とみられる.本試験のLimitationsとしては,このような試験は癌腫によって大きく結果が影響を受けるが,この試験ではVTEの比較的起こりにくい婦人科領域,リンパ腫,膵臓がんが多く含まれていたこと.サンプルサイズが比較的小規模であること等が挙げられる.
(担当:飯尾、まとめ:石井)
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