カウンター

2018年12月27日木曜日

2019年1月のJournal Club

【抄読会担当者 2019年1月】 
             2019年 1月9日  :大越(薬剤部)
     2019年 1月16日 :金澤(薬学学生)
     2019年 1月23日 :坂木(感染)
     2019年 1月30日  :増谷、呉(感染実習看護師)

     
      順番は、適宜相談にて変更いたします。都合悪い場合は、ご連絡ください
                           (2019年1月31日Ver2.0)

2018年12月26日水曜日

Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents.

本日のJournal Clubは、薬剤部の福田先生に、成人・思春期児の合併症のないインフルエンザに対する新規抗インフルエンザ薬バロキサビル(日本名:ゾフルーザ🄬)の有効性について、9月発表のNEJMの論文を紹介していただきました。
本当に臨床的に費用対効果を考慮して必要であるか議論あるところです。

【目的と方法】
バロキサビル・マルボキシル(日本名:ゾフルーザ®)は、インフルエンザウイルスのキャップ依存性エンドヌクレアーゼ選択的阻害薬である。現在の抗ウイルス薬に対する耐性株を含むインフルエンザ AB ウイルス感染の前臨床モデルにおいて、マルボキシルは治療活性が示されている。CAPSTONE-1試験は、日本および米国で201612月から20173月までにインフルエンザ様症状を呈した合併症のない12-64歳を対象とし、バロキサビル、オセルタミビル(日本名:タミフル🄬)、あるいはプラセボ群に221で割り付けた二重盲検ランダム化比較試験(RCT)である。ただし、オセルタミビル群だけは異常行動との関連の問題が指摘されていた関係で10歳代への処方制限がある時期の研究であるため、20-64歳を対象とした(2018821日より10歳代への処方再開が認められている)。用量範囲探索(1040 mg)プラセボ対照試験を行った後、1617 年のインフルエンザ流行期間中に、1264 歳の患者を対象に、プラセボ群およびオセルタミビル投与群を対照とし、体重に基づく用量(40 mg または 80 mg)のバロキサビルを単回投与する試験を行った。オセルタミビルの用量は75 mg 1 2 回で5 日間投与とした。主要有効性評価項目は、intention-to-treat感染集団におけるインフルエンザ症状緩和までの時間とした。

【結果と結論】
 結果として、1436例がランダムに割り付けされ(8割弱が日本から登録)、ITTI集団(intention-to-treat infected population)は1064例であった。主要評価項目である「症状緩和までの期間」はITTI集団でバロキサビル群がプラセボ群より有意に短いという結果だった(中央値53.7時間 vs. 80.2時間)。つまり、パロキサビル投与で有症状期間を約1日短縮するということが示され、またレジメン開始後 1 日の時点におけるウイルス量のより大きな減少が示された。しかし、バロキサビル群とオセルタミビル群との比較については有意差がなかった(中央値絶対差は0.3時間)。結論として、合併症のないインフルエンザ患者において,バロキサビルの単回投与は,明らかな安全性への懸念を伴わず,症状の緩和についてはプラセボに対して優越性を示した。いっぽうで有害事象の発生は、バロキサビル群20.7%、プラセボ群24.6%、オセルタミビル群24.8%で認められた。バロキサビルへの感受性低下につながるI38T/M/F置換を伴うポリメラーゼ酸性蛋白領域の変異は、第II相試験とCAPSTONE-1試験で、それぞれバロキサビル投与例の2.2%と9.7%で認められた。

【抄読会での主な討論】
・ゾフルーザは日本小児学会の推奨が得られなかったので、日本ではなかなか売れないか。
Table2のゾフルーザ投与群でプラセボ群より体温が高かったりしている、本当に二重盲検化できているのだろうか。
・ここでAdverse Eventsとされているものの殆どはインフルエンザの症状そのものだったりするので、それはしっかり副作用と区別できているのだろうか。

10人に1人の耐性化がやはり非常に気になる。ゾフルーザ投与で罹患期間が延びるとか信じられない。
(担当:福田、まとめ:石井)

2018年12月19日水曜日

Three new disease-progression modes in NSCLC patients after EGFR-TKI treatment by next-generation sequencing analysis.


今回は、呼吸器内科児玉先生の担当です。NSCLCを3つの群わけにしてNGSの解析を行なったレトロの研究です。
 Mode1:原発巣増悪群
 Mode2:転移巣増悪群
 Mode3:原発・転移増悪群 での評価です。結果は・・・

<背景>
EGFR変異は欧米では腺癌患者の10-15%、アジアでは40-50%に認められる変異である。この変異に対してはEGFRTKIが使用されることとなる。Erlotinib,gefitinibの様な第1世代TKIはチロシンキナーゼドメインに対し可逆的に標的と結合し、2世代TKIであるafatinibは共有結合性に標的に結合する。EURTAC,OPTIMALWJTOG3405などのphase3試験ではEGFR変異のある患者に対するTKIの使用がORR80%、かつ極めて著しいPFSの改善を認めることを示した。しかし大多数の患者が9-16か月程度の治療ののち、耐性化を来すことが知られている。特にT790M変異は最も一般的な耐性機序として知られており、更に頻度は低いもののMETHER2PIK3A,BRAF、小細胞転嫁なども報告されている。Osimerutinibに対する耐性化も、C797S,L718,L792などがすでに挙げられている。

従来の研究では組織診を元に研究が続けられていたものの、腫瘍内多様性や腫瘍の変化などの制約があった。次世代シークエンス(NGS)massive parallel sequencingとして知られている、膨大なゲノム情報を解析する有効な方法である。がん細胞から放出された血清中ctDNAは従来の生検と比較して侵襲性が少なく、再検が容易であり腫瘍の多様性をより包括的に評価することが出来る。
近年の試験では3種類の病勢進行mode(原発巣の増悪、転移巣の増悪、両方の増悪)がEGFRTKI治療失敗においてあると想定される。一方で、それぞれの遺伝子的な変異に関しては知られていることが少ない。今回我々の目的はNGSを使用し、この3modeEGFRTKI耐性機序の違いを評価することと、その生存への影響を調査することである。

Method
対象:
    組織学的・細胞学的に進行性NSCLCと診断されたもの
    TKIの世代に関わらず、治療後に画像的に増悪が認められたもの
    増悪後にNGSを受けているもの

中国の41人の患者が登録された。
末梢血、胸水が遺伝子テストのため集められた。更に、もし生検が行われていた場合、その組織も同様に評価された。

NGSによる評価】
5-10ml程度の血液、胸水、組織が集められ、NGS2会社に提出された。目的としては61種類の重要なexonと、生物学的原理、治療プロトコルに関わるintronの部分を見つける事とした。

<結果>
41患者が評価された。年齢中央値は62(30-86)22(53,7%)が女性、32(78%)never smoker100%adenocarcinomaであった
CNS転移が27(65.9%)、骨転移12(29.3%)、副腎11(26.8%)などであった。
変異の内訳はDel1914(34.1%)L858R23人。1人はL858R+S768I2人がL858R+T790M1人が19del+T790Mなどであり、3/41ALK変異を有していた。


原発巣増悪
転移巣増悪
両方増悪
患者数
8(19.5%)
13(31.7%)
20(48.8%)

TKI失敗後の血小板の数がmode2mode1,3で明らかに異なった。(p=0.045)

治療の1st lineGefitinib26人、erlotinib9人、icotinib3人、osimerutinib3人。残りが化学療法。Post treatmentとして20人が化学療法を行い、17人がosimerutinibを使用した。(Table2)


TP53
L858R
T790M
19del
内訳
20/41(48.8%)
20/41(48.8%)
17/41(41.5%)
14/41(34.1%)
その他APC7.3%TET2 7.3%,DNMT3A7.3%,ARIDIA4.9%.CTNNB1 4.5%

Mode3(両方転移)においてmutant geneの数、種類ともにmode1,2より明らかに多かった。
Mode1ではDel19変異は認めなかった。(p=0.02)
L858RT790Mのサブグループでは3mode間での有意差はほとんど変わらなかった。

PFS> TKI治療から耐性化まで
PFS中央値は10か月、3群間で有意差あり
原発巣は6か月、転移巣は11か月、両方は10か月
del19subgroupの転移巣 vs 両方は10か月vs 12か月(P=0.896Fig 2b)
L858R6か月 vs 7か月 vs 10か月、(p=0.153)
T790Mでは、7か月、11か月、16か月(p=0.09,Fig2D)

1st line として化学療法を行った9人を除外してみると、PFS3群で明らかに異なったP=0.0056Fig1A)、原発巣増悪は明らかに転移巣群、両群よりPFSが短かった(6か月 vs 12か月、p=0.0004)(6か月 vs 10か月、p=0.045)

年齢、性別、喫煙歴などの臨床的なデータの差はPFSに影響を及ぼすものは認めなかった。

discussion
この研究ではTKI治療不良のNSCLC患者に対し、NGSを使用し3つの新しい増悪グループに定義しその差を評価した。原発巣増悪群のPFS中央値はその他2群よりも明らかに短かった。それとは別に、両方増悪群では明らかにその他2つよりも遺伝子変異の数、量ともに多かった。原発巣増悪群ではdel19変異は認めず、一方転移巣増悪群ではgene amplificationは認めなかった。この事から、PDにおける原発巣増悪はPFS減少のリスク因子と考えることができる。
Kimdel19L858Rの患者での臨床的なイベントを比較し、TKI治療不良においてdel19L858Rと比較して肺内多発転移を来しやすいことを報告した。更に、その他の報告からdel19L858Rよりも良好な予後となることが報告されている。我々の研究ではdel19を持つ原発巣増悪患者はおらず、これまでの報告と照らし合わせるとL858Rよりも良好な予後となることを説明している。
Zhoudel19変異の患者でのT790M変異率がL858Rと比較して高いことが生存率の延長に寄与すると報告した。しかし本研究においてT790M併存のdel19L858R群でPFSには差を認めなかった。

TKI治療中は、CT,MRIなどで腫瘍変化を評価しており、耐性化が起きたタイミングで、T790Mを計測することが必要とされている。陽性の場合はosmierutinibの適応となるが、陰性の場合の、その他標的を発見することが必要である。
本研究とこれまでのガイドラインを元に、EKI治療不良群に対する戦略をFig3に示す。
    原発巣増悪群に関しては、EGFRTKI±抗血管治療が治療可能性がある。あるいは化学療法±抗新生血管阻害薬に変更する。
    転移巣増悪のみの場合、EGFRTKIに加え放射線照射や手術などの局所療法がよいと考えらえれる。
    両方増悪群の場合、化学療法±抗新生血管阻害が2nd lineとして適していると考える

Limitation
・単施設後ろ向き試験のため、更なる試験が必要。
41人の血液サンプルのみがNGSで行われているため、統計学的な説得性に欠ける。
PD後にDNAを採取している患者が大半であり、TKI前のNGSサンプルは4人のみ。。
(試験前の段階ではどの変異が関係しているかわからなかったため)

<考察>

Fig2Aで示された、Mode1原発巣転移がPFS予後不良であり、Mode2/3の方がPFS良好の結果であり、若干臨床的感覚とは異なっていた。症例数が少ないため正確性に欠けるのではないだろうか!
NGSを実施するコストを考慮すると、おそらく40数例での結果が限界なのかもしれない。明確な答えはあまり言及できない結果と思われる。
(担当:児玉、まとめ:児玉、濵元)