今回は、呼吸器内科児玉先生の担当です。NSCLCを3つの群わけにしてNGSの解析を行なったレトロの研究です。
Mode1:原発巣増悪群
Mode2:転移巣増悪群
Mode3:原発・転移増悪群 での評価です。結果は・・・
<背景>
EGFR変異は欧米では腺癌患者の10-15%、アジアでは40-50%に認められる変異である。この変異に対してはEGFRTKIが使用されることとなる。Erlotinib,gefitinibの様な第1世代TKIはチロシンキナーゼドメインに対し可逆的に標的と結合し、2世代TKIであるafatinibは共有結合性に標的に結合する。EURTAC,OPTIMALやWJTOG3405などのphase3試験ではEGFR変異のある患者に対するTKIの使用がORR80%、かつ極めて著しいPFSの改善を認めることを示した。しかし大多数の患者が9-16か月程度の治療ののち、耐性化を来すことが知られている。特にT790M変異は最も一般的な耐性機序として知られており、更に頻度は低いもののMET、HER2、PIK3A,BRAF、小細胞転嫁なども報告されている。Osimerutinibに対する耐性化も、C797S,L718,L792などがすでに挙げられている。
従来の研究では組織診を元に研究が続けられていたものの、腫瘍内多様性や腫瘍の変化などの制約があった。次世代シークエンス(NGS)はmassive parallel sequencingとして知られている、膨大なゲノム情報を解析する有効な方法である。がん細胞から放出された血清中ctDNAは従来の生検と比較して侵襲性が少なく、再検が容易であり腫瘍の多様性をより包括的に評価することが出来る。
近年の試験では3種類の病勢進行mode(原発巣の増悪、転移巣の増悪、両方の増悪)がEGFRTKI治療失敗においてあると想定される。一方で、それぞれの遺伝子的な変異に関しては知られていることが少ない。今回我々の目的はNGSを使用し、この3modeのEGFRTKI耐性機序の違いを評価することと、その生存への影響を調査することである。
<Method>
対象:
①
組織学的・細胞学的に進行性NSCLCと診断されたもの
②
TKIの世代に関わらず、治療後に画像的に増悪が認められたもの
③
増悪後にNGSを受けているもの
中国の41人の患者が登録された。
末梢血、胸水が遺伝子テストのため集められた。更に、もし生検が行われていた場合、その組織も同様に評価された。
【NGSによる評価】
5-10ml程度の血液、胸水、組織が集められ、NGSの2会社に提出された。目的としては61種類の重要なexonと、生物学的原理、治療プロトコルに関わるintronの部分を見つける事とした。
<結果>
41患者が評価された。年齢中央値は62歳(30-86)、22人(53,7%)が女性、32人(78%)がnever smoker。100%がadenocarcinomaであった
CNS転移が27人(65.9%)、骨転移12人(29.3%)、副腎11人(26.8%)などであった。
変異の内訳はDel19が14人(34.1%)、L858Rが23人。1人はL858R+S768I、2人がL858R+T790M、1人が19del+T790Mなどであり、3/41がALK変異を有していた。
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原発巣増悪
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転移巣増悪
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両方増悪
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患者数
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8人(19.5%)
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13人(31.7%)
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20人(48.8%)
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・TKI失敗後の血小板の数がmode2とmode1,3で明らかに異なった。(p=0.045)
治療の1st lineはGefitinibが26人、erlotinibが9人、icotinibが3人、osimerutinibが3人。残りが化学療法。Post treatmentとして20人が化学療法を行い、17人がosimerutinibを使用した。(Table2)
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TP53
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L858R
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T790M
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19del
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内訳
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20/41(48.8%)
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20/41(48.8%)
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17/41(41.5%)
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14/41(34.1%)
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その他APC7.3%、TET2 7.3%,DNMT3A7.3%,ARIDIA4.9%.CTNNB1
4.5%
Mode3(両方転移)においてmutant geneの数、種類ともにmode1,2より明らかに多かった。
Mode1ではDel19変異は認めなかった。(p=0.02)
L858RとT790Mのサブグループでは3mode間での有意差はほとんど変わらなかった。
<PFS> TKI治療から耐性化まで
PFS中央値は10か月、3群間で有意差あり
原発巣は6か月、転移巣は11か月、両方は10か月
・del19subgroupの転移巣 vs 両方は10か月vs 12か月(P=0.896、Fig 2b)
・L858Rは6か月 vs 7か月 vs 10か月、(p=0.153)
・T790Mでは、7か月、11か月、16か月(p=0.09,Fig2D)
1st line として化学療法を行った9人を除外してみると、PFSは3群で明らかに異なったP=0.0056、Fig1A)、原発巣増悪は明らかに転移巣群、両群よりPFSが短かった(6か月 vs 12か月、p=0.0004)、(6か月 vs 10か月、p=0.045)。
年齢、性別、喫煙歴などの臨床的なデータの差はPFSに影響を及ぼすものは認めなかった。
<discussion>
この研究ではTKI治療不良のNSCLC患者に対し、NGSを使用し3つの新しい増悪グループに定義しその差を評価した。原発巣増悪群のPFS中央値はその他2群よりも明らかに短かった。それとは別に、両方増悪群では明らかにその他2つよりも遺伝子変異の数、量ともに多かった。原発巣増悪群ではdel19変異は認めず、一方転移巣増悪群ではgene amplificationは認めなかった。この事から、PDにおける原発巣増悪はPFS減少のリスク因子と考えることができる。
Kimはdel19とL858Rの患者での臨床的なイベントを比較し、TKI治療不良においてdel19がL858Rと比較して肺内多発転移を来しやすいことを報告した。更に、その他の報告からdel19はL858Rよりも良好な予後となることが報告されている。我々の研究ではdel19を持つ原発巣増悪患者はおらず、これまでの報告と照らし合わせるとL858Rよりも良好な予後となることを説明している。
Zhouはdel19変異の患者でのT790M変異率がL858Rと比較して高いことが生存率の延長に寄与すると報告した。しかし本研究においてT790M併存のdel19とL858R群でPFSには差を認めなかった。
TKI治療中は、CT,MRIなどで腫瘍変化を評価しており、耐性化が起きたタイミングで、T790Mを計測することが必要とされている。陽性の場合はosmierutinibの適応となるが、陰性の場合の、その他標的を発見することが必要である。
本研究とこれまでのガイドラインを元に、EKI治療不良群に対する戦略をFig3に示す。
①
原発巣増悪群に関しては、EGFRTKI±抗血管治療が治療可能性がある。あるいは化学療法±抗新生血管阻害薬に変更する。
②
転移巣増悪のみの場合、EGFRTKIに加え放射線照射や手術などの局所療法がよいと考えらえれる。
③
両方増悪群の場合、化学療法±抗新生血管阻害が2nd lineとして適していると考える
<Limitation>
・単施設後ろ向き試験のため、更なる試験が必要。
・41人の血液サンプルのみがNGSで行われているため、統計学的な説得性に欠ける。
・PD後にDNAを採取している患者が大半であり、TKI前のNGSサンプルは4人のみ。。
(試験前の段階ではどの変異が関係しているかわからなかったため)
<考察>
Fig2Aで示された、Mode1原発巣転移がPFS予後不良であり、Mode2/3の方がPFS良好の結果であり、若干臨床的感覚とは異なっていた。症例数が少ないため正確性に欠けるのではないだろうか!
NGSを実施するコストを考慮すると、おそらく40数例での結果が限界なのかもしれない。明確な答えはあまり言及できない結果と思われる。
(担当:児玉、まとめ:児玉、濵元)
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