<背景>
PD-1阻害薬は近年、進行期NSCLCのほぼすべての患者に対して使用される抗癌剤となった。一方で面積チェックポイント阻害薬(ICI)は世界的な試験では自己免疫性疾患(AID)を除外して行われており、AIDを伴うNSCLC患者に対するICIの安全性はわかっていない。AID合併癌に対してのICI投与はこれまでに2つの後ろむき試験が行われており、いずれも30%程度がAIDの増悪を起こしたと報告している一方、基本的には安全であると報告している。この2論文はどちらもメラノーマを対象としており、他の癌種への影響は明らかではない。本試験はICIのAID合併患者への投与の安全性について後ろ向きに検討した。
<方法>
対象:stageⅢB/ⅣのNSCLC患者で、AIDを有している患者
2015年5月から2017年12月まででPD-1単剤療法を行っている
除外:喘息患者および自己免疫疾患と診断されていない甲状腺機能低下症の患者
AIDの症状、増悪、irAEは後ろ向きに各評価者がCTCAEを元に評価した。
<結果>
計56人のNSCLC患者が評価された。
治療中央期間は3.1か月、フォローアップの中央値は17.5か月だった。
PD-1投与前より免疫抑制剤治療を行っていた患者は11人(20%)であった。
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AID症状の増悪
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13人(23%)
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G1-2
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87%
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G3
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13%
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G4-5
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0%
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全身ステロイド投与を有した患者
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4人
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AID増悪による投薬中止
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0人
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irAE
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21人(38%)23件
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G1-2
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15人(27%)
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G3-4
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6人(11%)
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irAEによりICI投与中断
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8人(14%)
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ORR
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22%
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DCR
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53%
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投与前に症状を有している患者の増悪率は50%であり、無症状の患者の増悪(18%)と比較して明らかに多かった。
リウマチ性の基質疾患を有する患者の方がその他の疾患よりも増悪率が高かった(40% vs 10%)
irAEとしては肝機能上昇、間質性肺炎、中枢性尿崩症、大腸炎などがあった。
<考察>
AIDを合併するNSCLC患者に対するICIの投与に関しては未知の領域であり、本試験は我々の知る限りPD-1阻害薬の安全性を評価した最大の試験である。本試験では55%がAIDの増悪ないしirAEを発症したものの、そのほとんどはG1-2であり、投与中断した例は14%にとどまった。G3-4のirAEをきたした患者の割合は11%であり、AID患者を含まない従来の試験での発症割合(7-15%)と比べ有意差を認めなかった。一方PD-1投与を中止した割合(14%)はこれまでの報告と比較するとやや効率であった。(3-8%)
また、投与前にAIDが有症状である患者の方がAIDの増悪をきたすリスクが高いことが分かった。
Limitation:
後ろ向き試験であり、重症なAID患者などは含まれない可能性が高く、実臨床の患者群と比較することが困難である。
ICIを投与された期間も限定されており、長期投与によるAEやAID増悪に関しては不明である。
我々の試験においてはAID増悪をきたした患者23%のうち、21%が6か月以内に発症しており、増悪が比較的早期に起こりうることを示唆した。
結論としては、本試験での安全性はAID合併メラノーマ患者での安全性試験と比較して同等の結果であり、臨床投与に耐えうるものと考える。実際のリスク因子や毒性に関して更なる試験が必要と考えられる。
抄読会での検討:
そもそも、55%のAIDの増悪もしくはirAEとあるが、AIDの重症度も軽度であったと考えられる。呼吸器診療の中で、留意するべき間質性肺炎についても5例(G2)程度であった。エントリー段階で、間質性肺炎などは除外されていたと考えられる。
本試験をもとに、AID患者へも安全にICIが使用できるとは簡単には言うことはできないが、今後の検討は必ず必要となってくると思われる論文であった。(後記:濵元)
(担当:皆川、まとめ:児玉)
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