今回は、感染管理の坂木さんの担当です。インフルエンザワクチンの接種デバイスの進化?についての検討した研究でした。
<背景>
インフルエンザは、現在の世界的なワクチン普及にも関わらず未だ罹患率、死亡率の高い疾患の一つであり、アメリカでは48000人が毎年命を落としている。ワクチンによる予防は現時点ではコスト面、簡便性などで未だ課題があると考えられる。
マイクロニードルパッチ(MNP)は従来の注射器と針の代替手段として潜在的な免疫原性の改善、シンプルさ、費用対効果、受容性、安全性を提供することが期待されている。マウスによる試験ではその有効性が証明され、保存の簡便さ、製造コストの低さなどが注目されている。また、化粧業界などでは既に人に使用している一方でワクチン接種などではヒトへの臨床試験は行われていない。そこで今回このMNPによるワクチン接種をインフルエンザの予防接種に使用し、その安全性、免疫、忍容性に関してphaseⅠ試験を行った。
<方法>
対象:18-49歳の妊娠していない成人
除外:2014,2015にインフルエンザワクチン接種歴がある。重大な皮膚疾患がある患者
対象を4群に分け、それぞれインフルエンザワクチンを投与した。4群はそれぞれ①MNP使用、②ワクチンの筋注、③MNPを使用したプラセボ投与、④自己にてMNPを使用、と割り付けられた。
患者は方法に関してmaskせずに摂取を行っている。
Primary safety outcome:摂取180日以内のAE、、28日以内のG3以上のAE、7日以内の副反応(注射部位、全身性)
Secondary safety outcome:180日以内の慢性疾患の新規発症、28日以内の報告がなかった副反応
さらに、血球凝集阻害抗体アッセイを3種のインフルエンザ(H1N1,H3N2,Bウイルス)に対し行い、幾何学的平均力価(GMT)、抗体価、seroconversionを計測した。
<結果>
2015年6月~9月に登録された100人が均等・ランダムに4群に割り付けられた。
すべての群において治療関連の重大なAEは認められなかった。また、新規発症の慢性疾患の出現なども認められなかった。
その他AEに関して、筋注群では圧痛、疼痛がやや多く、MNPでは紅斑、圧痛、掻痒感が認められたものの、4群間で優位なAEの発生率は認めなかった。
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②筋注
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①
MNP医療者
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③MNP自己
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全G2-3AE
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3/25(12%)
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1/50(2%)
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掻痒感
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4/25(16%)
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41/50(82%)
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発赤
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0/25(0%)
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20/50(40%)
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注射部疼痛
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11/25(44%)
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10/50(20%)
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H1N1鎖凝集
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997
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1197
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H3N2鎖凝集
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223
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287
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B鎖凝集
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94
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126
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28日時点でのGMTは筋注群と医療者によるMNP、自己接種のMNPでほぼ変わらず、有意差は認めなかった。また、28日時点でのseroconversionはMNPによるワクチン接種と筋注群で変化なかった。
<考察>
上記結果よりMNPは安全性、効果面で筋注と比較しても遜色がないことがわかった。特に摂取後疼痛に関しては筋注よりも少なかった。自己接種でも医療者摂取とほぼ同等の結果となったことから、MNPを使用することでワクチン接種を行う人口増加が期待できるとともに医療者にとっても時間の節約がなされることが期待できる。
MNPはほかの筋注・鼻腔噴霧式と比較しても自己接種が非常に簡単な点、針の廃棄が不要な点、保存が簡単な点などでアドバンテージがあり、更に医療経済削減の点からも今後は医療者を介さない自己接種が主流となる可能性がある。
Limitation:100人のphaseⅠ試験であり、今後より大人数での試験が必要となる。
<感想>
ワクチン接種方法としては日本では皮下注射が一般的であるが、アメリカでは筋注が一般的である。しかしアメリカでは筋注を嫌がる人も多く接種率はそれほど高くないようであり、より簡便、保存が安易、低コストなワクチンの開発が盛んな様子である。鼻腔噴霧式や、本研究のような貼付式などが徐々に開発されているが、今回のTIV-MNP2015はこれまでの少数研究と比較しある程度の人数を確保し、かつ良好な結果がでた報告である。
特に自己貼付が可能な点より、災害時やpandemic時など人的資源が不足している際は非常に有効であると考えられ、今後の開発が待たれる。しかし、摂取時のアレルギーに対する問診や副作用の対応など、医療者を介さないことによる問題点も多く、実用化という面ではしばらくかかりそうである。ゆくゆくはワクチンはコンビニで購入し、自分で摂取、という時代になるかもしれない。
(担当:坂木、まとめ:児玉)
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