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2017年9月13日水曜日

Depression, inflammation, and epidermal growth factor receptor (EGFR) status in metastatic non-small cell lung cancer: A pilot study.

今日は、西埼玉中央病院、研修医初の抄読会を鬼塚先生が担当します。
EGFR遺伝子変異認める肺癌患者の抑うつについて因果関係あるかのPilot試験でした。

PMID:
28712427
<背景>
癌の遺伝子変異、生化学的な機能への理解ははここ10年の間に大きく進歩している。特にNSCLCは単なる病理学的な特徴だけではなく遺伝子多型に関しても理解が進んでいる。これまでは、担癌患者と鬱症状の関係について言及した報告は、その頻度の多さ(10-25%)に反比例してごく少数であった。しかし鬱を発症する患者には特異的な異常所見がある可能性もあり、特に炎症初見と鬱症状が関連しているという報告もあることから、鬱を発症する人とサイトカインの異常は関連がある可能性が指摘されている。更に、我々はEGFR変異陽性のstageNSCLCにて鬱症状がEGFR陰性患者より少なかったとの報告をしている。
仮説の一つとしてEGFRなどの遺伝子変異によりサイトカインや成長因子の流れが変化し、結果として鬱症状の頻度に関わってくることが考えられ、この仮説の下に本研究を行っている。まず我々は、1)EGFR陽性の患者は鬱症状が軽い、あるいは出現頻度が少ない、2)EGFR変異の状態とMDD(major depressive disorder)は血清サイトカインや成長因子に関連がある、という仮説を立て、本研究を行った。 

<方法>
対象:
stageNSCLC患者であり、かつその遺伝子変異に対する知識のないもの
NSCLCに対し、以前に化学療法や放射線療法を行っていないもの
・認知機能障害のないもの、かつ精神疾患の既往のないもの

に対し、採血、問診、さらに自己分析としてpatient health questionnaire-9をおこなった。

鬱の重症度に関してはDSM-Ⅳを元にデザインされたPHQ-9を使用し評価した。
MDD
に関してはMINI(Mini-international neuropsychiatric interview)を行い現時点での評価を行った。
さらに、化学療法開始前にTNF-α、IL-1β、Il6を評価した。

<結果>
58人が本研究に登録された。3人はstagingの段階で除外された。
残りの55人のうち、38人がEGFR変異陰性、7人は組織不十分で不明となった。
2群は性差(EGFR変異陽性は女性優位)、喫煙歴(EGFR変異陽性の方が少数)以外は明らかな差異を認めなかった。
また、鬱症状の重症度に関してはEGFR陽性の患者の方が優位に軽症であった。
全体の中では14人がMINIにてMDDとされ、EGFR陽性患者は陰性患者と比較して少数であったものの、これについては有意差はでなかった。
血清学的検査に関してはEGFR陽性患者の方が優位にTNF-αが高値であったものの、その他は明らかな所見を認めなかった。
一方MDDの患者はTNFαが優位に高値であった。

Limitation
対象となる人数が少ない点。
喫煙者、性差に偏りがある点。
その他鬱症状と関連がある可能性のある併存症状は未確認である点。

<考察>
これまではEGFR変異のある患者は鬱症状が軽症であるとの報告があったものの、今回の結果ではEGFR変異のある患者は鬱症状こそ軽症であったもののTNFαは陰性患者と比較して高値であった。一般的にはMDDの診断となった患者はTNFαが高値となるが、今回それ以外のサイトカインに関しては明らかな所見を認めなかった。
担癌患者の炎症と鬱症状についてはこれまでも仮説があったもののEGFRは検討されたことはなかった。鬱症状自体がTNFα、IL-6の上昇と関係あることや、喫煙と関連があることは従来の報告でいわれているものの、EGFR変異とサイトカインの関係性については色々な推測がされており、本研究で従来と反対の結果となった原因についてはEGFの関連性が示唆されるものの、不明である。今後サイトカインシグナルとEGFR、鬱の関連性については更なる研究が必要だろう。

<感想>
精神疾患と悪性腫瘍との関連性について言及した報告である。2010年に本報告執筆者のJennifer S Temelが担癌患者への早期緩和ケアの導入が予後を改善するとの報告をして以来、同分野は解明が進んでいる。本研究は精神疾患とEGFR,サイトカインとの関連を報告しており、症例数が少ないためはっきりとした結論は出ていないものの今後の推移が知りたいところである。経験上でもEGFR変異陽性患者の方が「元気」な患者が多いようにも見受けられるため、何らかの因子が関わっている可能性が期待できるかもしれない。今後は精神科でもtarget therapyが主流になっていくのかもしれず、とても興味深い内容だった。
(担当;鬼塚、まとめ;児玉)

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