<背景>
小細胞肺がん(以下SCLC)の治療方法はこの40年でわずかな進展しかなかったものの、近年その性質への理解が深まり(例:TP53,RB1遺伝子変異など)、それに対するいくつかの試験が進められている。
スタチンは心疾患予防に効果のある安価な薬剤であり、基礎レベルでは腫瘍成長の抑制や、乳がん、膵癌、SCLCなどのいくつかの癌種においてはアポトーシスを引き起こすなどの結果が出ている。この事から、抗癌剤に併用することで抗腫瘍効果の増強を来すことが期待された。本研究の前に、プラバスタチンを肝腫瘍に対し使用したランダム化試験ではOSが9か月延長したと報告されている。(Kawata
et al, effect on pravastatin on survivail in patients with advanced
hepatocellular carcinoma. A randomized controlled trial)
本研究は以上のような背景を受け、大規模phase3試験を行った。(PMID:28240967)
<方法>
対象:chemo-naïveなSCLC患者に対し、Pt+ETPにて加療。
18歳以上、PS 0-3。ED/LDの病型は限定なし
除外:組織系が混合型、その他の癌の既往がある、登録12か月以内にスタチン系の投与、ないし4週間前以内にフィブラートの投与がある
患者はPSに基づき、ランダムに分けられ、プラバスタチン40mgないしプラセボを、病状進行ないし中止に準ずるAEの出現まで1日1回、2年間服用した。
全患者は標準的な抗癌化学療法を6サイクル行った。放射線照射に関しては限定していない。
PE:OS
SE:PFS,抗腫瘍効果,毒性
【評価方法】
各サイクル前にXp、生化学検査を行い、その後2か月おきに1年、その後は3か月おきに評価した。CTは3サイクル目・化学療法終了4週間以内と、必要時に撮影した。
<結果>
846人の患者が登録された。
スタチン群
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プラセボ群
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HR
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OS
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10.7か月
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10.6か月
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1.01
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2年OS率
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14.1%
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13.2%
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Median PFS
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7.7か月
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7.3か月
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1.01(adjusted)
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1年PFS率
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25.3%
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24.2%
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・EDとLDそれぞれに限っても有意差は認めなかった。
・腫瘍の反応性に関しても有意差はなかった。
・AEにもプラセボ群との差は認めなかった。
<考察>
・スタチンを加えることは副作用の点からは安全であったが、メリットもなかった。
・今回のスタチン投与量は40mgであり、もしかすると80mgの最大投与量であれば何らかの効果が認められた可能性がある。
・LUNGSTARが登録された2005年代は前臨床のエビデンスは十分であった。しかし現在出版されている二重盲検試験4例ではいずれも有意差が証明されていない。前述のKawataの報告は恐らく盲検法でなかったことと、患者数が少なかったためではないか。
・本研究はランダム化試験としてはほかの研究の3倍以上のmassを持っており、今回の結果を踏まえるとスタチンには抗腫瘍効果はほぼないと考えられる。現在進行中のスタチン試験に関しては資源を節約するためにも一度中間評価を行い、場合によっては途中で終了することをお勧めする。
<感想>
本文にもある様に2005年代、スタチンは心疾患減少リスクのほか肺炎・sepsis・癌にも効果があると噂され、それを受けて数多くの試験が実施された。しかしほとんどが本研究のようにnegative studyとなった様子である。
当時SCLCに対する化学療法は新規分野が少なかったこともこれほど大きなPhase3試験を行うきっかけとなったのかもしれない。いずれにしてもphase3前の臨床研究は重要であることを再認識する報告となってしまった。
(担当 石塚 栞;薬学学生、 まとめ:児玉)
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