本日のJournal Clubは,感染管理看護師(ICN)・坂木晴代氏に「MRSA 保菌者における退院後の感染リスクを低下させるための除菌の効果の有無」について,最新(2月14日発表)のNEJM掲載論文を発表していただきました.(掲載遅れましたが、Journal Clubは継続してます!)
【抄読会での主な討論】
・参加者は3か月おきの面会おきに25~50ドルの謝礼が出ているが,この謝礼は介護者には払われなかったのか.インセンティブのあり方でもバイアスが大きく関わる。
・クロルヘキシジンの浴槽とかシャワーは,日本では有効な濃度で実施されていないことが多い.
・糖尿病のP値が,比較群と対象群で0.08と低いが,これはどうしてか.選択バイアスは?
・ムピロシンはあまり使われていない抗菌薬という印象があるが.当院ではどういうときに出るのか.他院では,心臓外科の手術後などで使われることがある?
(小児では、バクトロバンとして使用されることが多いらしい)
・プライマリーアウトカムでCDCの基準を満たした感染とあるが,Limitationsでも老人ホームで基準が厳格に適用されなかったとあるが,なかなか判断が徹底できているのだろうか.
(CDCの感染基準に準拠して診断されていた)
・2次アウトカムにしてもMRSAの臨床症状の出現はなかなか難しい判断と言えそうだが.
・そうは言っても,MRSAに対してここまで真正面から研究を組むのはさすが感染症医学の先進国のアメリカだ.
(担当:坂木、まとめ:石井)
【目的と方法】
まず,背景としてはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を保菌している入院患者は,退院後の感染のリスクが高いことがある.この度の研究グループは,病院や介護施設に入院・入所し,MRSA保菌が確認された被験者を無作為に2群に分け,退院・退所時に,一方には衛生管理に関する教育のみを,もう一方に衛生教育と除菌指導を行い,1年間の参加者の追跡調査を行った.具体的な除菌指導の内容は,クロルヘキシジンによる口腔洗浄と入浴またはシャワー浴,そしてムピロシン(バクトロバン)の鼻腔内塗布(5日間連続を月2回,6ヵ月間)で行った.主要アウトカムは、米国疾病予防管理センター(CDC)基準によるMRSA感染とした.さらに2次アウトカムは,臨床的判断に基づくMRSA感染とあらゆる原因による感染,もしくは感染による入院とした.解析は,per-protocol集団(無作為化され、包含基準を満たし退院後も生存した全被験者)と,as-treated集団(指導を受けたレジメン順守の程度により階層化した被験者)を対象にそれぞれ比例ハザードモデルを用いておこなった.
【結果と結論】
被験者は,2011年1月10日~2014年1月2日に南カリフォルニアにある17病院と7介護施設から集められ,2,140例が無作為化と追跡を受けた.per-protocol集団(2,121例)において,MRSA感染の発生率は,衛生教育群9.2%(98/1,063例)に対し,衛生教育+除菌群は6.3%(67/1,058例)で同感染者の入院率は84.8%だった.あらゆる原因による感染の発生率は,衛生教育群23.7%に対し,衛生教育+除菌群は19.6%で同感染者の入院率は85.8%だった.MRSA感染リスクは,衛生教育+除菌群が衛生教育群よりも有意に低下した(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.52~0.96、p=0.03).1例の感染を予防するための治療必要数[NNT]は30(95%CI:18~230)であった.また,同感染リスクが低いことが,MRSA感染による入院リスクの低下にもつながっていた(HR:0.71、95%CI:0.51~0.99).臨床的判断に基づくあらゆる原因による感染リスクも,衛生教育+除菌群が衛生教育群に比べて有意に低く(HR:0.83、95%CI:0.70~0.99),感染に伴う入院リスクも有意に低下した(HR:0.76、95%CI:0.62~0.93).ただし著者らは,「これら2次アウトカムの治療効果は,事前に多重比較に関する補正を規定していなかったため慎重な解釈を要する」としている.as-treated集団の解析では,除菌レジメンを順守した衛生教育+除菌群の被験者のMRSA感染リスクは,衛生教育のみの群に比べて44%低く(HR:0.56、95%CI:0.36~0.86),あらゆる原因による感染リスクは40%低かった(同:0.60、0.46~0.78).副作用(すべて軽度)は,参加者の 4.2%で発生した.結論としては,クロルヘキシジンとムピロシンを用いた退院後の MRSA 除菌により,MRSA 感染のリスクは教育単独よりも30%低くなった.この試験のLimitationsとして,この試験では介入自体が盲検化出来なかったこと,1年の追跡では短すぎる可能性があること,そして,介入(シャワーなど)の状況は参加者による報告に基づいており,製品の残量チェックもあったものの,どちらも実際の使用を反映しないかもしれないことがあげられる.さらに,ほぼすべての感染症が入院につながっており,このことは.より軽度の実際の感染症が発見を免れたことを示唆している.大部分の外来患者および特別養護老人ホームの記録は,CDCまたは臨床基準に従って感染症と見なされるための事象についての文書が不十分であった.したがって、MRSA感染症のリスクが観察されたものより30%低いのか,それとも培養されないすべての原因による感染リスクが17%低いのかが,入院に至らなかった重症度の低い感染症に当てはまるかどうかは不明であることであった.最後に,クロルヘキシジンおよびムピロシンに対する耐性は試験中に出現しなかったが,この試験の追跡調査期間を超えて耐性の発生には時間がかかる可能性がある.
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