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2019年3月28日木曜日

児玉先生最終Journal Club

2017年4月より2年間西埼玉中央病院呼吸器内科を支えてくれた児玉先生が、4月より離職します。短い間でしたが、お疲れ様でした。最後に抄読会で締めくくってくれました。これからは、静岡県立静岡がんセンターで自分の能力を発揮してがんばってください!!
(抄読会メンバー一同より)


Association of Antibiotic Treatment With Outcomes in Patients Hospitalized for an Asthma Exacerbation Treated With Systemic Corticosteroids.

今回は、呼吸器内科児玉先生西埼玉中央病院最後の抄読会です。4月より、靜癌での仕事となります。なぜか、今日は喘息についてのお話でした。喘息発作へのステロイド以外に抗生剤の使用が必要か否かの研究です。

<感想>
喘息患者の大半は入院をせずに抗生剤なし、ステロイド治療で行っていることを考えるとあながち間違っていない。しかし入院が必要な患者に関してはやはり抗生剤を入れない、という選択肢は取りづらい事が多い。論文の主旨としては正論ではあるが、実臨床は、特に入院が必要な場合がほとんどではないだろうか。
 中小規模の病院施設での治療となると、必ずしも呼吸器専門医の治療ではないとも考えられる。その場合は、不安だから抗生剤を使用する医師も多いはず。抗生剤の使用があれば在院日数も延長するロジックではないであろうか?やはり、前向きに無作為に進めなければ結論は出ない問題とも考えられます。(担当:児玉、まとめ:児玉/濵元)

background
米国において喘息は、肺疾患でも最も頻度の高い疾患であり、246万人が罹患しているといわれている。現行のガイドラインでは喘息により入院した患者に対しては、肺機能の評価を行い酸素投与、SABA吸入、全身ステロイドが推奨されている。近年の報告では喘息に対する抗生剤治療に対して十分なエビデンスを認めておらず、ガイドラインでも不必要な抗生剤治療は推奨されていない。しかし49.1%もの患者に対し抗生剤が使用されているといわれている。今回、我々は大きいサンプルサイズでの評価を行った。


methods
米国にある543の急性期施設。ほとんどは小~中規模の郊外にある病院。75%の病院が費用のデータを提出した。
対象:18歳以上。喘息の診断ないし、急性呼吸不全の診断で入院し、2次診断で喘息と診断された患者。20mg/dayのステロイドの経口内服/静脈投与を受けた患者。(⇒中~重症の喘息に限定するため)
除外:COPD、肺気腫、肺炎、UTI、軟部組織炎などで抗生剤を使用している患者
他施設から転院搬送された患者(前治療が不明となるため)
複数回の入院歴のある患者はその中から1回のみをランダムに選択した。(生存バイアスの除外)

早期抗生剤の治療として、入院の最初の2日間に導入され、最低2日間の投与を行ったものとした。2日目以降に抗生剤を投与した群は「不使用群」に割り付けた。⇒治療開始の遅れが予後に寄与する可能性があるため。

outcome
PO:入院期間
SO:治療失敗群率(人工呼吸器導入、2日目以降のICU転院、死亡、退院30以内の再入院)
更に入院費用、アレルギーや下痢などの抗生剤使用の副作用も検討した。

result
19811人の患者の平均年齢は46歳、72.6%が女性。44.3%が白人。Medicareの保険が25.8%
抗生剤を使用した患者は44.4%であった。
合併症としては高血圧(45%)が最も多く、次いで肥満(28.8%)、糖尿病(22.5%)、うつ病(12.9%)であった。患者のうち15.5%1年以内に入院歴のある患者であった。


抗生剤群
無使用群
人数
8788(44.4%)

年齢中央値
48
45
白人
48.6%
40.9%
medicare
29.4%
23.0%
治療失敗率
5.4%
5.8%
マクロライドが最も使用頻度が高く(51.9%)、キノロン(34.8%)、第3世代セフェム系(19.6%)と続いた。598(3.0%)2日目以降に抗生剤の使用を受けた。

8788人の患者のうち、propensity matching scoreに合致したのは6833人だった。

抗生剤群
無使用群
p
治療失敗率
373(5.5%)
388(5.7%)
0.58
M入院期間
4
3
<0.01
費用
$4776
$3641

副作用として下痢
98(1.4%)
75(1.1%)


抗生剤を使用する群としない群での30日以内の再入院率には差がなかった。抗生剤関連下痢は抗生剤使用群で多かったものの、傾向マッチングスコアでは差がなかった。

更に、2日以降に抗生剤を使用した患者を除外して検討したが、下痢以外のはっきりした群間の差は認めなかった。下痢は2.6倍多く発生した。


discussion
2万人に近い喘息入院患者が登録されている。この中で、2日以内に抗生剤を使用する病院が非常にありふれている一方で、治療自体が患者の予後と相関していないことが判明した。一方で、抗生剤使用は入院期間の長期化、費用の高騰、抗生剤関連下痢の増加と関連していた。この結果は選択バイアスを可能な限り除外したsensitivity analysisでも同様の傾向が見られた。この結果は現状のガイドラインを強力に後押しする結果となった。

278人を対象とし、喘息患者へのtelithromycinを使用する試験では、患者の症状緩和には役立つものの、呼吸機能、その他予後には寄与しないことが判明し、この抗生剤使用は米国で中止された経緯がある。最近の試験では全身ステロイドにアジスロマイシンを追加したAZALEA試験がある。しかしこれも患者へのメリットを認めなかった。
不適切な抗生剤使用は耐性菌、AEなどの問題を引き起こすことを考慮すると、不適切な高生時治療は行わない方がよいと考えられる。入院期間が長くなった理由はわからないが、可能性としては抗生剤による治療完了が延長に寄与したと考えられる。なた、抗生剤関連の下痢の発症も一因として考えられる。

Limitation
抗生剤自体が病状の悪い患者に優先的に使用されていた可能性は否定できない。
⇒傾向マッチングスコアを行うことでその可能性を減少させた。
病気の重症度(肺機能、患者の情報)などは得ることができなかった。しかし、これまでの入院歴やその他の治療から重症度を推測することはでき、その情報は感度分析に取り入れられている。



2019年3月24日日曜日

2019年4月のJournal club

【抄読会担当者 2019年4月】 
             2019年 4月3日  :大越(薬剤部)
     2019年 4月10日 :濵元(呼吸器)
     2019年 4月17日 :井部(呼吸器)
     2019年4月24日  :石井(呼吸器科)

   4月から呼吸器内科へ初期研修医1年目がローテ開始します。
   途中、担当するかどうかは、適宜判断していきます。

   飯尾さん、太田さんについては、論文選びなど必要あれば相談連絡ください。

      順番は、適宜相談にて変更いたします。都合悪い場合は、ご連絡ください
                           (2019年3月24日Ver1.0)

2019年3月20日水曜日

Decolonization to Reduce Postdischarge Infection Risk among MRSA Carriers.

本日のJournal Clubは,感染管理看護師(ICN)・坂木晴代氏に「MRSA 保菌者における退院後の感染リスクを低下させるための除菌の効果の有無」について,最新(214日発表)のNEJM掲載論文を発表していただきました.(掲載遅れましたが、Journal Clubは継続してます!)

【抄読会での主な討論】
・参加者は3か月おきの面会おきに2550ドルの謝礼が出ているが,この謝礼は介護者には払われなかったのか.インセンティブのあり方でもバイアスが大きく関わる。
・クロルヘキシジンの浴槽とかシャワーは,日本では有効な濃度で実施されていないことが多い.
・糖尿病のP値が,比較群と対象群で0.08と低いが,これはどうしてか.選択バイアスは?
・ムピロシンはあまり使われていない抗菌薬という印象があるが.当院ではどういうときに出るのか.他院では,心臓外科の手術後などで使われることがある?
(小児では、バクトロバンとして使用されることが多いらしい)
・プライマリーアウトカムでCDCの基準を満たした感染とあるが,Limitationsでも老人ホームで基準が厳格に適用されなかったとあるが,なかなか判断が徹底できているのだろうか.
(CDCの感染基準に準拠して診断されていた)
2次アウトカムにしてもMRSAの臨床症状の出現はなかなか難しい判断と言えそうだが.
・そうは言っても,MRSAに対してここまで真正面から研究を組むのはさすが感染症医学の先進国のアメリカだ.
(担当:坂木、まとめ:石井)
【目的と方法】
まず,背景としてはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を保菌している入院患者は,退院後の感染のリスクが高いことがある.この度の研究グループは,病院や介護施設に入院・入所し,MRSA保菌が確認された被験者を無作為に2群に分け,退院・退所時に,一方には衛生管理に関する教育のみを,もう一方に衛生教育と除菌指導を行い,1年間の参加者の追跡調査を行った.具体的な除菌指導の内容は,クロルヘキシジンによる口腔洗浄と入浴またはシャワー浴,そしてムピロシン(バクトロバン)の鼻腔内塗布(5日間連続を月2回,6ヵ月間)で行った.主要アウトカムは、米国疾病予防管理センター(CDC)基準によるMRSA感染とした.さらに2次アウトカムは,臨床的判断に基づくMRSA感染とあらゆる原因による感染,もしくは感染による入院とした.解析は,per-protocol集団(無作為化され、包含基準を満たし退院後も生存した全被験者)と,as-treated集団(指導を受けたレジメン順守の程度により階層化した被験者)を対象にそれぞれ比例ハザードモデルを用いておこなった.

【結果と結論】

被験者は,2011110日~201412日に南カリフォルニアにある17病院と7介護施設から集められ,2,140例が無作為化と追跡を受けた.per-protocol集団(2,121例)において,MRSA感染の発生率は,衛生教育群9.2%(98/1,063例)に対し,衛生教育+除菌群は6.3%(67/1,058例)で同感染者の入院率は84.8%だった.あらゆる原因による感染の発生率は,衛生教育群23.7%に対し,衛生教育+除菌群は19.6%で同感染者の入院率は85.8%だった.MRSA感染リスクは,衛生教育+除菌群が衛生教育群よりも有意に低下した(ハザード比[HR]0.7095%信頼区間[CI]0.520.96p0.03).1例の感染を予防するための治療必要数[NNT]は3095CI18230)であった.また,同感染リスクが低いことが,MRSA感染による入院リスクの低下にもつながっていた(HR0.7195CI0.510.99).臨床的判断に基づくあらゆる原因による感染リスクも,衛生教育+除菌群が衛生教育群に比べて有意に低く(HR0.8395CI0.700.99),感染に伴う入院リスクも有意に低下した(HR0.7695CI0.620.93).ただし著者らは,「これら2次アウトカムの治療効果は,事前に多重比較に関する補正を規定していなかったため慎重な解釈を要する」としている.as-treated集団の解析では,除菌レジメンを順守した衛生教育+除菌群の被験者のMRSA感染リスクは,衛生教育のみの群に比べて44%低く(HR0.5695CI0.360.86),あらゆる原因による感染リスクは40%低かった(同:0.600.460.78).副作用(すべて軽度)は,参加者の 4.2%で発生した.結論としては,クロルヘキシジンとムピロシンを用いた退院後の MRSA 除菌により,MRSA 感染のリスクは教育単独よりも30%低くなった.この試験のLimitationsとして,この試験では介入自体が盲検化出来なかったこと,1年の追跡では短すぎる可能性があること,そして,介入(シャワーなど)の状況は参加者による報告に基づいており,製品の残量チェックもあったものの,どちらも実際の使用を反映しないかもしれないことがあげられる.さらに,ほぼすべての感染症が入院につながっており,このことは.より軽度の実際の感染症が発見を免れたことを示唆している.大部分の外来患者および特別養護老人ホームの記録は,CDCまたは臨床基準に従って感染症と見なされるための事象についての文書が不十分であった.したがって、MRSA感染症のリスクが観察されたものより30%低いのか,それとも培養されないすべての原因による感染リスクが17%低いのかが,入院に至らなかった重症度の低い感染症に当てはまるかどうかは不明であることであった.最後に,クロルヘキシジンおよびムピロシンに対する耐性は試験中に出現しなかったが,この試験の追跡調査期間を超えて耐性の発生には時間がかかる可能性がある.