本日のJournal Clubは、当院の薬剤部実習生(帝京平成大学・金澤さん)が切除可能な肺癌に対する PD-1 阻害薬による術前補助療法について、2018年5月のThe New England Journal of Medicineの論文を紹介してくれました。
【目的と方法】
PD-1蛋白阻害薬は進行した非小細胞肺癌(NSCLC)患者の生存期間を延長させるが,切除可能な
NSCLC については検討されておらず,この 10 年間で治療にほとんど進歩がみられていない.未治療の外科的切除可能な早期(I 期,II 期,または IIIA 期)NSCLC の成人患者を対象としたパイロット試験(第Ⅱ相探索的臨床試験)で,PD-1 阻害薬であるニボルマブを術前に 2 回投与した.ニボルマブ(3
mg/kg 体重)を 2 週間隔で静脈内投与し,手術は初回投与の約 4 週間後に計画した.主要評価項目は安全性と実施可能性とした.腫瘍病理学的奏効, PD-L1の発現,腫瘍の遺伝子変異量,がんの変異による新たな特異的な抗原(ネオ抗原)に対する T 細胞応答も病理的に評価した.
【結果と結論】
摘出した腫瘍 21 個のうち 20 個で完全切除が得られた.1例はGr 3の間質性肺炎を発症したため1コース投与後に不完全切除術を受けた.画像的な奏功が2例あり,20 個中 9 個(45%)で病理学的な著効が認められた.奏効は
PD-L1 陽性腫瘍と
PD-L1 陰性腫瘍の両方で認められたが,治療前腫瘍のmutation burdenと病理学的奏功は相関があった.腫瘍と末梢血の両方で検出された T 細胞クローンの数は,評価した 9 例のうち 8 例で PD-1 阻害後に全身で増加した.病理学的評価で完全奏効が認められた原発腫瘍に由来する変異に関連したネオ抗原特異的 T 細胞クローンが,治療後 2~4 週の時点で,末梢血中で急速に増殖した.これらのクローンの一部は,ニボルマブ投与前には検出されていなかった.
結論として,ニボルマブによる術前補助療法は,副作用が少なく,手術を遅延させることもなく,切除した腫瘍の 45%で病理学的著効が得られた.腫瘍の遺伝子変異量は,PD-1 阻害薬で得られる病理学的奏効の予測因子であった.治療により,末梢血中の変異に関連したネオ抗原特異的 T 細胞クローンの増殖が誘導された.
【抄読会での主な討論】
・ 論文内には単純に「PDL-1陽性の有無」とあるが,それぞれの発現率が非常に気になる.(サプルメンタルIndexには掲載がありそうだが)
・ このパイロット試験だけでは,Neoadjuvandが良いのか,オペ後のICI投与でも良いのか,なんとも言えないところだ.大規模試験の結果が待たれる.
・ 筆者は,おそらく将来的にはStageⅣのNSCLCでも手術可能になるということを示したいのだろうか.ある意味ではその為のパイロット試験とも言えそうだ.
・ 放射線科的にSDとなってもICIを行えばよいということも示したいのだろうか.
・ この試験で最も対象としたかったのはⅢA期の患者であったと思われる.それでもⅠ期,Ⅱ期を含めて試験を行ったのは,論文掲載を急いでいたのだろうと推測する.
・ そもそも,Ⅰ期を含めてこの試験を行ったのは疑問.まずは手術で奏功が得られる症例でICIを先に行うことで,倫理委員会などはどういう判断をしたのだろうか.
・ 論文後半の病理学的奏功率について述べている部分は非常に難解だ.腫瘍のPDL-1発現だけではなく,宿主側の免疫応答などについても特異的T細胞クローンなどを例に述べており,これらの分野の今後の研究の成果が気になる内容だ.
(担当:金沢、まとめ:石井)
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