本日のJournal Clubは、看護大学院研究生として実習中の増谷瞳さん(慶応義塾大学病院)と呉禮媛さん(公立阿伎留医療センター)に、腸内細菌敗血症に対する経口ステップダウン治療の有効性について、最新(2019年1月22日発表)のJAMAの論文を紹介していただきました。
【目的と方法】
腸内細菌菌血症の治療で経口薬に変更することは、患者の活動性を上げ、カテーテルによる不快感を軽減し、カテーテル関連の感染症や他の合併症のリスクを減らし、医療費を抑制することにより、患者のQOLを大きく改善する可能性がある。そこで本研究では、腸内細菌菌血症患者に対する早期経口ステップダウン治療群と継続的点滴治療群による30日死亡との関連を比較した。方法としては、3カ所の教育医療機関の多施設後ろ向き観察研究で、1:1プロペンシティ・スコアマッチングを行った入院中の単一の腸内細菌による菌血症患者4967人が2008年1月から2014年12月までに集められた。そこからの組み入れ対象は、感染源のコントロールが適切であり、5日目までに臨床的に改善していること、適切な抗菌薬が初日から開始され治療終了まで連続して投与されていること、適切な経口抗菌薬があること、経口摂取や薬剤内服ができることであることを条件とし、暴露群では、腸内細菌菌血症に対する治療開始5日以内の経口ステップダウン治療が行われた。統計学的解析が2018年3月から6月まで行われ、メインアウトカムは30日後の全死亡とされた。
【結果と結論】
上記の組み入れ基準を満たした2161人を解析対象とした。1185人(54.8%)が男性、1075人(49.7%)が白人だった。平均年齢は59歳(48-68歳)。1:1のプロペンシティ・スコアマッチングで1478人がマッチされ、各群とも739人だった。菌血症の感染源としては、尿路 594人(40.2%)、消化器 297人(20.1%)、中心静脈関連 272人(18.4%)、肺 58人(3.9%)、皮膚軟部組織 41人(2.8%)であった。30日間の全死亡は、経口ステップダウン群 97人(13.1%)、継続点滴群 99人(13.4%)で有意差は認めなかった(HR 1.03:0.82-1.30)。両群で30日時点での再発頻度に有意差を認めなかった(経口群 0.5% vs 点滴群 0.8%、HR 0.82:0.33-2.01)。経口ステップダウン群は点滴群と比較して2日早く退院した(経口群 5日 vs 点滴群 7日、p<0.01)。結論付けると、本研究では腸内細菌菌血症による入院患者において、経口ステップダウン群と静脈注射継続群では、30日死亡に有意差を認めなかった。この結果からは、腸内細菌菌血症患者において、感染源のコントロールが良好で臨床経過も順調であれば、経口ステップダウン治療への移行は効果的なアプローチであるといえる。さらに、早期の経口ステップダウン治療は、入院期間の短縮に繋がる可能性がある。主たるLimitationsとしては、経口ステップダウンの判断が医師の個人的な裁量によるために一貫していないことや、後ろ向き試験であり偏りの制御が困難であること、それぞれの抗生剤の吸収率などの詳細なデータを欠くことなどであった。
【抄読会での主な討論】
・Limitationsにもあるが、経口に変更できた患者とあるが、経口に変更するという裁量が医師にあれば、必ずそこに選択バイアスが生まれるのではないか。また、De-escalationにしても、感染症の専門医が適切に行ったのか、救急医や各科の医師などの感染症専門外の医師が行ったのか、これによっても結果は大きく変わってくると思う。
・経口治療を推奨すると、LVFXなどの処方が増え、耐性菌を生む危険があるのでは。
・そもそも多くの経口スイッチでキノロンが処方されていることから、この研究は意味がないのではないか。レボフロキサシンは点滴と経口で薬剤移行性が相違ないことが分かっている抗菌薬なのだから。
・今回のように、多臓器で比較しても何とも言えない。菌種で絞れないとしても、せめて臓器で絞らないと結果は有効ではないと思われる。
・さらに薬剤も絞って、大腸菌にケフラールなどで限定してやってみればよい。
・その意味では、New Englandに掲載された論文でアモキシシリンの傾向内服への切り替えで感染性心内膜炎の予後に差が出るかの研究があったが、こちらのほうが例えNが少なくても意味のある研究と言えるのではないか。
(担当:増谷・呉、まとめ:石井)