坂木さんのFNに関する論文です。
<背景>
Sepsis-3では、予後不良な患者を特定するための基準として迅速な臓器不全評価(qSOFA)が開発された。qSOFAはICU外の患者に対する予後予測因子としてSIRSより優位であり、complex SOFA scoreと非劣勢であることが証明されている。
しかし今なおその正確性に関しては議論になっており、更にICU内の感染患者に対するqSOFAのパフォーマンスに関しては少数の論文しか存在しない。更に、有意な罹患率と死亡率をもたらす合併症をもつ化学療法による熱性好中球減少症(FN)を伴うがん患者群における研究は行われていない。これらの患者に対しては敗血症に関して早期の正確な評価が必要である。本研究はqSOFAが実際に敗血症、死亡率、ICU入院基準としてのスクリーニングの道具として予測因子になるかを評価したものである。また、第2の目標としてMASCC(FN患者に対するリスク指標スコア)とSIRSと比較したperformanceを比較した。
<方法>
後ろ向きに収集された成人FNデータを使用した。
対象:2015年1月から12月まで峨山医療センターを受診した、発熱および化学療法による好中球減少を伴う成人患者(18歳以上)
Main outcome:敗血症の発生。
Secondary outcome:ICU入院と28日死亡
FNの診断は、絶対好中球数が<500
cells/mm3 または <1000 cells/mm3で、2〜3日以内に500 cells/mm3未満に減少し、38.0℃以上の発熱は鼓膜体温計を用いて記録された。
調査期間中にFNのエピソードが2回以上ある患者については、初回のもののみ対象とした。
臨床データ:バイタルサイン、検査データ、画像データ、併存疾患、癌診断および病期、感染部位を含む、統計および臨床データ
培養検査:入院時、尿と感染が疑われる部位、血液培養3セット
抗菌薬:PIPC/TAZまたはセフェピムを含む広範囲の非経口抗菌薬
全ての患者は28日以上追跡した。
<結果>
615人の患者のうち100人が敗血症を発症し、20人が死亡し、38人がICUに入院した。
【内訳】
33.2%が男性、FNを起こした患者のうち37.7%が乳がんであり、全体の45%がstageⅣのがん患者であった。
多変量解析では、qSOFAは敗血症およびICU入院を予測する独立した因子であった。
しかし、MASCCスコアと比較して、qSOFAのROC曲線下面積は小さかった。(AUCに関してはMASCC>qSOFA>SIRS)
qSOFAは、敗血症、28日の死亡率、およびICU入院を予測する際に低い感度(0.14,0.2および0.23)を示したが、高い特異性(0.98,0.97および0.97)を示した。
<考察>
Sepsis-3では新しくqSOFA scoreが定義されたが、これはベッドサイドでの増悪の可能性を予測する因子として使用されることとなった。我々の検査では、qSOFAはSIRSよりも正確であるものの、FN患者の敗血症のリスク、28日死亡率、ICU入院率に関してはMASCC scoreの方が正確であった。中国での同様の試験では、感染症と診断されたICU入院患者の予後をqSOFA、SOFA,APACHEⅡ,MEDSなどと比較評価したが、ROC curveのAUCは0.666と不良であった。我々の検査でもほぼ同様のAUCであり、多変量解析でもqSOFAはFN患者の予後規定因子にはならなかった。
qSOFA自体は非常に簡便で頻回にチェックできるのが強みである。本研究より新しい敗血症の診断基準としては不適と考えられるが、qSOFA陰性は敗血症の否定にはならないものの死亡率やICU入院の指標となることが分かった。
Limitation:患者はED入院時でのqSOFAを評価している。
単施設での研究
<結語>
qSOFAはFN患者に対しての敗血症、死亡率、ICU入院のスクリーニングには正確でないことが分かった。高い特異性を示したものの、qSOFAは感度としては不十分でありベッドサイドでの使用には条件がつくことが分かった。またMASCCと比較してその評価正確性は劣り、FN患者に対してqSOFAが代替指標とはなり得ないことが分かった。
(担当;坂木、まとめ:児玉)
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