<背景>
インクレチンベースの治療法(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬など)はT2DMの重要な治療薬の選択肢である。米国糖尿病学会、EASDでは2nd lineとしてこれら薬剤が推奨されている。血糖コントロールへの効果はよく知られており、更に体重減少、抗高血圧作用に加え低血糖を起こしにくい薬剤である。SAVOR-TIMI53試験という大規模ランダム化試験ではsaxagliptinがプラセボと比較して死亡率を上げる、という報告がされた。しかしこの報告は他の試験では否定されており、論争となっている。こうした背景より、我々はインクレチンベースの治療薬の死亡リスク上昇についてメタアナリシスを行うこととした。
<方法>
GLP-1ないしDPP-4阻害薬をプラセボ/生活習慣改善/他のT2DM治療薬、と比較した試験を集めた。
対象:12週以上のフォローが行われた試験、かつ死因がすべて報告されているもの。
2017年2月までにMedline,EMbase,CENTRALなどにあげられた試験を複数任で確認し、バイアスのないものを取り上げた。
<結果>
19250本の論文のうち、1187本を査読した結果適当と考えられた189論文155145患者についてメタアナリシスを行った。
すべての論文は企業協賛があった。119本がDPP-4について、68試験がGLP-1について、両薬剤についてが4試験であった。
130試験がインクレチンvs プラセボ、68試験がその他薬剤との比較、16試験がプラセボないし薬剤との比較であった。
189試験のうち77試験が死亡例がなかったとの報告であった。112試験で3888/151616人が死亡報告されており、そのうちの3592人(92.4%)が心血管予後試験の大規模試験で報告されていた。
インクレチンvs対象群で、死亡リスクの差は5年間で3/1000人の減少を認めた。
また、インクレチン薬剤毎のサブグループ解析を行ったが、いずれも死亡率に関しては同様の結果となった。
<考察>
今回のメタアナリシスを受け、我々はインクレチンベース薬剤がT2DMの死亡率を上昇するという仮説は根拠に乏しいと結論づけた。これにより、SAVOR-TIMI試験で指摘された死亡率の上昇の報告で混乱した患者、医師に安心を与えうるだろう。しかし、多変量メタ回帰分析ではGL-1阻害薬が死亡率の低下に寄与している可能性を示唆した。GLP-1作動薬はDPP-4よりもHbA1cの持続的な低下、体重減少、Bコントロールと関連していることが示されている。しかしサブグループ解析では明らかな死亡率低下効果は少なく、信頼性が低いと考えられた。
本研究により、T2DM患者の死亡率に冠氏、インクレチンベースの薬剤が関連性がないと考える。正確な結論を出すためには更なる大規模試験で、より長期のフォローと適切にデザインされた試験が必要と考える。
Limitation:薬物の長期的影響について評価されていない。出版バイアスなど
(担当:大越、まとめ:児玉)