本日のJournal Clubは呼吸器内科石井が、今年8月にJAMA Internal Medicineに掲載の、「院内感染の発症予防に個室管理が有効か」という題材の論文、「Time-Series Analysis of Health Care-Associated Infections in a New
Hospital With All Private Rooms」を紹介しました。これは、当呼吸器科部長の濵元先生が数年前に留学していたマッギール大学の本院の大規模移転に伴う全室個室化により、院内感染が予防効果を示したかどうかを前後で合計50ヶ月にわたり追跡した調査です。
Royal Victoria Hospital, Montreal
【抄読会での主な討論】
・全室個室化以外の因子、(新しい施設で換気もしっかりし、配管等もむき出しでない状況)が交絡因子としては挙げられそう。
・飛沫感染であり、医療者側の振る舞い、服装なども院内感染では大きく影響しそうだ。
・全ケベック州でCDIが減っているのは何が原因なのだろうか。
・似たような報告が確かオランダで最近出ており、それでは個室の有意差なしで出ているので、それとも比較したい。
・オランダなど、抗生剤選択が慎重に行われ、感染予防が徹底的に行われ、耐性菌もおきにくく、院内感染が少なくコントロールされている場所では個室でなくても予防できているということかもしれない。
(まとめ:呼吸器・石井)
【目的と方法】
医療関連感染症を減らす対策の1つとして、一般的には病室を全て個室にするという戦略が推奨されているがこれは非常に予算のかかることであり、根拠となる研究が必要だ。カナダMcGill大学Health CentreのEmily G. McDonald氏らは、ケベック州の大学病院が移転に際し、全室個室にしたことを受け、移転前後のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のコロニー形成率と、それらの院内感染発症率、およびクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)の発生率を比較する時系列研究を行った。医療関連感染症は、しばしば多剤耐性菌によって引き起こされ、入院費用の上昇や医原性の害を引き起こす。Facility Guidelines Instituteの新医療施設設計のためのガイドラインは、2016年から、新施設はすべて個室化することを推奨しているが、そうした施設は高コストであり、全室個室化により医療関連感染症が減らせるかどうかは明らかではなかった。感染症の発症には、環境中の微生物のコロニー数の他に、広域抗菌薬の使用、施設の清掃、手指衛生、患者の危険因子などの要因も関わるからだ。カナダMcGill大学Health Centreの傘下にあるRoyal Victoria病院は、1893年に創立された成人患者のための3次医療施設で、2015年4月26日に入院患者全員が新しい病院に移転した。移転前の施設は417床で3~4人部屋が主流だったが、新施設は全ての入院病室が個室の350床で、トイレとシャワーが備えられ、手洗い用のシンクもある。そこで著者らは、2013年1月1日から2015年3月31日までと、2015年4月1日から2018年3月31日までの、施設レベルにおける多剤耐性菌のサーベイランスの結果とそれらによる感染症発生率を比較することにした。同病院では移転前から毎月継続して、内科、外科と集中治療室に入院する全患者に対し、入院時に、また、それ以降は毎週、MRSAとVREのサーベイランスを行い、入院から3日後以降に、スクリーニングではじめて陽性になった時点、または臨床的に分離された時点で、新たな定着が発生したと判断している。加えて、過去12カ月間に同病院以外に医療機関を訪れておらず、それまでは陰性だったが、入院時のスワブが陽性になった患者も、新たな定着が発生したと判断する。MRSAまたはVREの定着が認められた患者は、隔離される。VREまたはMRSAの感染は、入院中または退院後に感染の兆候があり、検査した臨床標本(尿、手術部位スワブなど)からこれらが分離された場合とした。CD感染の検査は、24時間以内に3回以上液状便を経験した患者、または中毒性巨大結腸が認められた患者に対して実施されている。CD院内感染の定義は、入院から退院4週間後までに症状が現れ、便標本に対する直接PCRでCDが検出された場合などとしている。病室の日常的な消毒は、移転前も移転後も同様に行われた。Primary end-pointは、1万人・年当たりのVREとMRSAの定着率と、それらの院内感染率、およびCD感染率とした。
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